■入院者たち@

 戻ってくると、日ごろ無口なS君が顔をのぞかせる。
 メビウスがえらい薄くてかっこいいという。
 そうだろう。
 何しろ1年越しでB5ノートを狙い続け、そのお眼鏡にかなった私のお墨付き(?)だ。

 彼は、プログラマーであった。
 昨年は1年間、徹夜、土日出勤は当たり前という殺人的な仕事が続いたという。
 プログラマーのキャパを考えずに営業が仕事を取ってくるので困ったといっていた。

 今回、ひとつのプロジェクトが終わったので、思い切って1ヶ月の休暇をもらったのだそうだ。実は、3ヶ月前に痛くて痛くて来院し、膿を出してもらった後は楽になったので、来るのが面倒になっていたらしい。
 しかし、休暇をもらったのをしおにとってもらうことにしたようだ。

 退屈なのでデスクトップでもいいからパソコン持ってくればよかった、などといっている。
 こちらは、いろんな方と話をしたり、こうして日記を書いたりで暇な時間はまったくない。



 昼食時、13名が退院したため、食べる人がぐっと減っている。
 私と同日に入院した元バスケットマンFさんは、今は大手銀行マン
 手術は私より軽かったらしく、もう通常食になっている。退院が早そうだ。

 これから盆に入るのでちょうどいいね、と水を向けると、とんでもないという。
 まず、盆は交代で出なければならない。

 さらに、銀行は減点主義のため、こういうことで休むことすらいやな顔をされる。

 来年の3行合併を控え、主導権争いのまただ中にいることも一因のようだ。
 彼のいるセクションは、金融商品の開発を行っている。
 合併時にものをいうのは、いかに客をとっているかという数字だ。
 だから、商品開発に力を入れているわけだ。
 しかし、800名もの部隊がいるのであれば…と、素人は思ってしまうのだが。

 ところで、銀行というところのムラ社会性は、横田浜夫の「はみ出し銀行マン」シリーズで読んでいたが、いまだにその閉鎖性健在のようだ。



 さて、13:00から1F外来で診察があるとのこと。
 待っている間に、Mさんと話をする。
 彼はなんといわきから来たそうだ。

 彼も私と同じく6月ころ、インターネットで探したという。
 会津や福島など内陸部に病院があるのがわかったが、そちらは夏場暑いので敬遠。
 高速を使えば、こちらへ来るのも2時間程度でさほど変わらないため、ここを選んだという。

 彼は1箇所だけの手術だったらしく、ものの10分で終了。
 あれ、もう終わったの?と、ご家族の方に驚かれたそうだ。

 ところで彼は建設業関連
 レンタルの建設機械を現場に運ぶ運送業をしている。
 建設業界は、3月の決算期を過ぎると駆け込みの仕事が4月に残るくらいで、それから8月までは暇になるという。
 そして、9月から翌3月までは首も回らなくなるくらい忙しくなるというリズムだった。

 しかし、平成11年からパタッと落ちたという。
 建設が落ち、そこが利用するレンタルの機械が落ち、その機械を運ぶ運送業が落ち、という連鎖だ。今後はこれら広範な業者が憂き目に会うことになる。
 何とか切り抜けてほしいものだが…。



 診察は、きれいな女医さんであった。
 傷の回復は順調である。
 点滴もはずれ、病院の寝巻きから自分の寝巻きに変えることができた。

 便を出さないようにするため、腸の動きを抑える飲み薬を飲んだが、それも今夕で終わりである。
 本日3食食べたため、明日は便が出るかもしれない。
 出るときが一勝負。
 そして、出てしまえば、まずは一安心である。

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