■退院の朝

 さわやかな朝が明けた。
 窓を開けるとセミの声。
 涼やかなそよ風に薄いグリーンのカーテンが揺らめいている。
 柔らかいグリーンに包まれ、確かに気持ちの良い空間だなあ、と改めて感じる。

 今朝の便は、いきまずとも出た。
 先生が練り歯磨き程度の硬さの便が良い、と言われていたが、ちょうどそのような軟便で痛みも比較的少なくほっとした。
 そして、人間ドック用の検便も採取。
 これで全ておしまいである。

 ただ、排便後はやはり熱っぽいような痛みが続く。
 入浴してリラックスすれば引くような痛みで、自宅では風呂を多用しようと思う。
 尚、ここでは、便を柔らかくするために漢方の乙字湯を勧めている。
 しばらく利用してみたい。



 最後の朝食に最後の入浴、そして最後の診察。
 やることなすこと"最後"がつく。

 診察では、肛門の傷の経過は順調であったが、アテローマの縫合部分がまだくっついていない。ちょうど張力のかかる部分なので、下のほうがくっつかない。
 中から肉が盛り上がってくるのを待つことになるかもという。
 あるいは、別の対策を考えるか。

 いずれにせよ、1週間ほど様子を見て後のことという。
 3日後、10日後に来ることになっているため、その時に判断することになるだろう。

 診察後、薬をもらい、その全てを荷物にまとめた。

 10日間の生活が、大きな黒いバッグに納まった。




 10:00過ぎ、会計のコールがかかる。
 いよいよお別れである。

 少しの間の接触ではあったが、別れとは寂しいものだ。

 特に同室のNさんには、いろいろとお世話になった。
 がっしりと握手する。
 彼の豪快な社会人人生をはじめ、いろいろな話を伺った。
 奥様も闘病されている。
 その折の居住まいも印象に残る。



 Nさんは71歳というご高齢でありながら、6時間の大手術に耐え、10日間点滴のみの飲まず食わずで頑張られた。
 奥さんともども癌を淡々と受け入れるその姿から、私は生きる姿勢について学んだ気がする。それは、死に対する姿勢でもある。

 Nさんの姿は、私の中の深いところで発酵し続けていくことだろう。
 ご夫婦で手を取り合い、前向きに頑張っていかれることと思う。
 まだ先は長い。
 悔いなき人生を歩んでほしい。

【戻る】



  TOP 痔とは? 会社対策 病院探し 入院前 入院者諸相 手術前 手術百景 手術後 退院後 LINK


10日目
戻る 続きへ