■家路

 会計には、昨夕の面々が顔をそろえている。
 お出迎えも来ている。
 皆、晴れやかな顔だ。

 家族には来なくていいと昨日電話した。
 来てもらってもとんぼ返りになるだけだ。

 「お大事に」と声を掛け合い、暑い日差しの中、私は車中の人となった。

 ドアを閉めたとき、元の世界へ戻る人になった。



 車の運転は、やはり楽ではない。
 特に助手席の窓の開け閉めで手を伸ばすのは、アテローマの傷口のために厳禁と感じた。

 うちに戻っても、当面腹ばい主体で、ぐうたら過ごそうと思う。



 懐かしの駐車場に車を入れる。
 大きな荷物をトランクから出して担ぎながら、さてこのヒゲ面を見てどういう反応をするだろうなあ、と楽しみである。
 実は、入院して以来ヒゲをそっていない。

 「ただいま!」
 息子においでというと飛びついてきた。

 が、顔を近づけると、手で突っ張る。
 女房も娘も、来るなと逃げる。

 ワーワーギャーギャーとひとしきり騒がしいヒゲ騒動が続いた。



 古びた扇風機が回り、
 水槽にはめだかが泳いでいる。

 机の上には暑中見舞い。…

 相も変らぬ日常がそこにあり、
 私はそこに帰ってきた。

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10日目
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