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 HOME>メディア>「PAC21」2006.09掲載記事

■なぜ、会社を変えることができたのか?

7月30日、『子どもを追いつめる普通の家族の心理学〜家族カウンセリングの現場から〜』と題する講演&ワークショップをさせていただきました。多くの方にお越しいただき、またワークショップにも意欲的にお取り組みいただき、まことにありがとうございました。懇親会でもいろいろな方とお話しさせていただくことが出来ました。大いに盛り上がった(笑)「人間知恵の輪」を、是非いろいろなところでご活用ください。(皆様に深謝!)




さて前回、『ハヴィーガストが言うように、自分が安心できる居場所(安全基地)があることが、探索行動に向かうための「必要条件」なのです』と書きました。簡単に言うと、親を信頼できれば子はのびのびするということです。

また、『私が組織改革を成すことができたのはプロジェクトメンバーが自発的になったからでした。それは、彼らが私を安全基地と確信したからこそ自発的になったのです』と書きました。つまり、メンバーが私を信頼したからこそ、主体的にのびのびと動いたということです。

家庭では、「子どもを活き活きのびのび育てたい」。
会社では、「社員を活性化させたい」ということがよく言われ、さまざまに論じられています。

しかし、その多くは「子をのびのび"させる"」「社員を活性化"させる"」ためにはどうすればよいかという方法(ノウハウ)論が多く、子の環境である親や社員の環境である上司のあり方論は少ない気がします。
それが、「Doing Parent(働きかける親)」や「Doing Manager(やらせる管理職)」を大量に生み出すことにつながっているのではないでしょうか。その管理のしすぎが子どもや社員をつぶしています。

大切なことは、「How to do」ではなく「How to Be(どのように存在するか)」です。
前回で『子どもの問題は「親」の問題』であることが分かったとおり、"社員の問題は上司の問題"なのです。

私は、組織改革を行った実体験から、上司の姿勢が社員を活性化させる上で決定的な要素であると考えています。そこで、今回は『安全基地と危険基地(会社編)』として、上司のどのような行動や姿勢が社員を活性化させるのかについて書いてみたいと思います。
題して、「なぜ、会社を変えることができたのか?」。
管理職の方、プロジェクトマネジャーの方必見!(笑)です。




会社勤めをされた方は多少なりとも経験されていると思いますが、改善運動や改革プロジェクトなどがスタートする際、よしやってやろうと乗り気満々で臨まれる方は極めて希、否、ほとんどいないと言ってもいいでしょう。むしろ、それらのチームに選ばれようものなら、「ただでさえ忙しいのに」と、一挙にストレス値が上がり意欲が減退してしまうのがオチです。 数々の壁を乗り越え、私がようやく立ち上げた組織改革のプロジェクトもまた、ご多聞に漏れず同じ道を辿り始めました。

「俺たちはこれで評価されるわけじゃない。言われたことはやるから事務局の方で指示してよ」
「事業場から本社に来るだけでも大変。本社だけでやってくれないかなぁ」
「コンサルタントが最後まで責任持つわけないでしょう。システムを売ることだけが目的なんだから」
「こんな大規模のプロジェクトが成功するわけないよ。これより小さなやつでさえ中途半端で終わっているのに…。莫大な金と多くの社員の時間の無駄遣いだ。」


等々、つぶれるプロジェクトに巻き込まれてたまるか、という気持ちがありありで各地から集められたメンバー全員が逃げ腰でした。本社分科会を任されたリーダーも「ここまでバラバラでみな無責任だと僕一人に責任負わされても負いきれないよ」と愚痴を言い始め、プロジェクトは「予め失敗するプロジェクト」としてスタートしたのです。


さて、皆さんはどうされるでしょう。


(5分間思考タイム…どうぞ!)









































私は、コンサルチームの女性を"カウンセラーとして起用"しました。
全国のメンバーの「気持ちを聴く」役割を指示したのです。
しかし、この作戦は社内外から総スカンを食らいました。

「飲み屋のお姉さんがヨッパライの愚痴を聞いているのと変わらないじゃないか。ムダだ」
「本人の自覚の問題だろ。気持ちを聞くことで甘えを助長させるだけじゃないか」
「大変なのは誰も同じ。このプロジェクトの重要性が分かるなら意識を変えてもらわなきゃ」


…ところが3ヶ月後、プロジェクトはぐいぐいと進み始めたのです。
しかも、その後凄い集中力を発揮して、計5ヶ月の遅れをものともせず、半年も早く新しい体制で動き始めることになるのです。



一体、どのような魔法があったのでしょう?



ヒントは、これまで書いた中にあります。
前々回次のように書きました。


『「聴く」という行為には、
相手を一人の人間として認めること、及び
相手を尊重すること
の2つの意味が入っています。

そのため、聴く行為が「プラスのストローク」の最高のものの一つに挙げられているのだと思います。
そして、赤ちゃんと気持ちが通じ合ったときに、喜びと共に信頼関係ができあがります』。

そして、前回次のように書きました。

『「積極的になれ」と言っても積極的になれるわけではありません。(中略)
子どもが引っ込み思案になるのは、親である自分自身が子どもの安全基地になっていないからです。(中略)
自分が安心できる居場所(安全基地)があることが、探索行動に向かうための「必要条件」なのです
(上記の文を上司と部下に当てはめて読み替えてみてください)



つまり、こちらから聴きに出向いたという行為が自分は認められているという自尊心を与え、愚痴も含めて気持ちを受け止めたことが私に対する信頼を形成しました。
メンバーが自由闊達な議論という「探索行動に向かう」ことができたのは、私が安全基地であるという「必要条件」を満たしたからです。

私が、あれこれとDoing(働きかけ)したわけではありません。
私は、安全基地としてBeing(存在)していただけでした。





「聴く」というキーアクションが信頼関係を形成したのです。
もう一つ、「聴く」ことの効果がありました。

それは、メンバーの声を基にプロジェクト推進システムを変えたことです。
その新たなシステムにしたことにより、プロジェクトは極めて効果的に進むようになったのです。

それもそのはず、退職後に経営組織論を学んで知ったことでしたが、その組織形態はなんとリカートが言う「システム4」になっていました。
リカートは、組織を

システム1(独善的専制型)、
システム2(温情的専制型)、
システム3(相談型)、
システム4(集団参画型)


の4つにわけ実証的研究を行った結果、業績やモラール(士気, 満足度)、活性化の程度において最も優れていたのがシステム4であることを証明しました。

しかし、ほとんどの企業が1〜2であり、3はわずか、4はゼロに近いと述べています。
私たちは、現実になかなかなく、しかし最も理想的とされる「システム4」を、なんと"発明"してしまったのでした。





私は改めて「答えは内部にある」という言葉を実感していました。
同時に、その答えを引き出すことの出来るカウンセリングの効果を実証したと思いました。
感情はエネルギーを持ち、またユングが言うとおり合理的なものです。
その重たいエネルギーを受け止めてくれるからありがたく、感情を吐き出すことで身が軽くなって動けるようになります。
また合理的だから、その感情の背景に隠れている事実や解決策を見いだすことが出来るのです。

上司が聴く姿勢を持ち安全基地であれば、社員がのびのびとその力を発揮して会社を変えるほどのめざましい成果を上げるのは、実は合理的な心理メカニズムだったのです。
社員の尻をひっぱたくための評価や成果主義は、CPを強化するだけで不活性要因でしょう。

評価に無駄な時間をかけるよりも、NPとなって部下のFCを引き出してください。
子どもや部下を活性化させる神髄は、親であり管理職である自分の"あり方"にかかっているのです。
(生々しい組織改革物語−是非「あきらめの壁をぶち破った人々」をご参照ください)


最後に質問です。

トップが「自己責任」などという発言をしたら、果たしてその下にいる者達はのびのびとするでしょうか?






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