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 HOME>メディア>「PAC21」20017.09掲載記事

■保存版!モラハラ相談の手引き(1)

DV(ドメスティックバイオレンス)に脅かされていた妻が、ついに夫を刺し殺したという事件が、8/13日に飛び込んできました。現代日本は既に2日に1人配偶者が相手から殺されている国です。
にもかかわらず、家族相談をしていて、まだまだモラハラの認知は低いことを感じています。
例えば調停員も昔ながらの結婚観で、そもそもがよりを戻させようという発想ですから、離婚調停で2次被害に遭うことも少なくありません。この社会的無理解が被害者の救済を阻んでおり、手をこまぬいている間に殺人事件に発展しないとも限らないのです。

そこで交流分析を学ぶ多くの方に「言葉のDV」と言われるモラハラの概要を知っていただき、周囲の方へ認知を広めていただきたく2回にわたって掲載したいと思います。



■1,モラルハラスメントとは、「人権無視の犯罪」です

moral harassment】→直訳すると「精神的な嫌がらせ」ですが、「精神的暴力」と言った方が実態をよく表すでしょう。「暴力によってモラル(精神、倫理、道徳)が破壊されていく状態」です。

精神的暴力、肉体的暴力を問わず、暴力の本質は「ディスカウント」
ディスカウントとは「人の数(カウント)に入れない」、つまり人を人扱いしないと言うこと。

人格否定。つまりは、人権無視の犯罪です。
人としての尊厳が侵害され、人扱いされてないな、支配されているなと感じたら、それはモラルハラスメントです。尚、ディスカウントは具体的には次のようなものを言います。

・肉体的ディスカウント   突き飛ばす、殴る、蹴る、殺す
・精神的ディスカウント   皮肉、嫌味、けなす、仲間はずれ、無視(無視は精神的殺人です)




■2,モラハラの始まり方は、「ある日突然」

ある日突然ムッとした顔で口もきかない、あるいは、何でもないことで烈火のように怒る。そういう形で妻に精神的動揺を与えることから始まります。何の前触れもなく不意打ちを食らいますから、妻はうろたえるわけです。そして、自分に何か至らないところがあったのだろうかとか、あの人も疲れていたんだとか、あれこれ考え始めます。

このように考え始めるところで、もう既に相手の術中にはまっているわけです。 これを恋人時代にやると逃げられますよね。しかし、結婚してしまえばおいそれと逃げることができない「第3次禁止令」の状態ですから、安心してハラスメントができるわけです。自分の直感が「何かおかしい!」とピンときたら、相手の言動の記録を取るなど証拠集めを始めるようお勧めください。



■3,支配のポイントは「理不尽」

@ある日突然
A些細なことで 
B鬼のように怒る もしくはフルシカト(完全無視)する
というのがポイントです。

なぜ、突然なのか? なぜ、こんな些細なことで怒るのか? なぜ、そんなにまで罵倒されたり無視されたりするのか? …理性で考えても分かりませんよね。しかし身体が覚えるのは、服従しないとさらに嫌な思いをすると言うことです。だから、"我慢"することになりがちです。つまり、理不尽なことを押しつけることが服従を押しつけるポイントなんです。



■4,理不尽は「激化」する

ハラッサーは支配者という立場を守るために、常に理不尽を押しつけ続けることが日課とならざるを得ません
1つは、理不尽というもろいものの上に成り立っているからこそ、いつ支配の立場が崩されるか心配だからです。
2つには、理不尽を押しつけることが、互いに支配と服従の関係を確認することになるからです。

つまり、支配と服従の関係は常にその関係を保つ努力をしないといけないくらい不安定なものなんです。ですから、激化していくことも多いのです。



■5,逃げられない=「無力化」のメカニズムのケーススタディ

テレビの再現ドラマを基にストレス理論でご説明します。
ある晩夫がソファで寝ようとするので妻が心配すると、いきなり怒鳴られます。
「布団干してないだろ!あんな布団で寝られるか、バカ!」。
ある日突然、些細なことで、鬼のように怒られたわけですね。干してほしければお願いすればいいだけのこと。にもかかわらず、それをせずにわざと相手を罵倒するのは何故か。それは相手に「自分は至らない人間だ」という思いを植え付けるためであり、支配が始まったわけです。怒鳴られた妻は面食らいますが、夫も会社で何かイヤなことがあったのだろうと勝手に推測します(合理化)

次に、妻が友人と会って帰りが遅くなった日、夫は一人で料理を作っており妻を完全無視しました。
妻に非があるわけではないにもかかわらず、相手の後ろめたさにつけ込んで、ここぞとばかりに態度で責めたて「自責の念」を植え付けていきます。
2度にわたって"イヤな思い"(ストレスの程度=「脅威」と1次評価)をした妻は、布団は毎日のように干し、友人とは会ったとしても遅くならないようにしようと考え(2次評価) 、このように自己規制という「対処行動(コーピング)」をとることになります。

しかし、その後も家事に関して怒鳴られたり無視されたりすることがなくなりません。
「対処行動」が何の影響力もないことを思い知らされると、どのように対処するかということを考える能力(2次評価能力)が落ちてきて、「学習性無力症」に陥っていきます。

そのうち嫌気がさして妻は実家に戻ります。
妻は困らせてやるくらいのつもりでしたが、帰ってくると夫が「離婚届」を用意していました。妻は本気で離婚はしたいと思っているわけではありませんでしたので、破局を避けるための「防衛機制」が発動します。自分の気持ちをごまかして(合理化)、やりすぎたかなと反省し、「ごめんなさい」と謝ることになります。
結局、夫の理不尽さへの対応手段の結果が謝罪になったわけですから、妻の打つ手はどんどんなくなっていきます。
それに反して、夫は妻と自分が対等ではないことを見せつけ支配権を確立しました。

さらに夫は支配の絶対化に向けて動きます。
妻が病気でご飯が作れないとき、夫は舌打ちして外出し自分だけ食べて妻のことは気にもかけません。
この出来事は、次の2つを思い知らせることにより、夫が支配者で妻は奴隷であることを明確にしています。

1.奴隷がどのような状況にあっても、支配者にとってはどうでもいいこと
2.奴隷がどのような状況にあっても、支配者にはいつも通りのサービスが提供されないことが問題

この仕打ちにショックを受け、妻は恐怖とともに自分の気持ちをごまかして我慢する日々が続くことになります。目標的、意識的、未来志向的なコーピングを手放した妻は、強迫的、無意識的、過去に拘束される防衛機制で自我を守るしかなくなってくるのです。

すると、身体が悲鳴を上げ始め、動悸、息切れ、めまい、冷や汗、硬直、震え、過呼吸、自律神経失調、パニック障害など体調に異変が出るようになります(ストレス反応)

そこで再び実家に相談しようにも、一度戻って謝ったことを知っている実家は「あなたにも至らないところがあるんじゃない」という見方をし、友人達からは「男なんてそんなものよ」とか「子供のために離婚だけは避けた方がいい」というアドバイスを受けて、もう誰も分かってくれないという孤絶感を味わいます(2次被害)

この背景には、ハラッサーの外面のよさがあります。ハラッサーは他意なく単純に外面がいいのではなく、妻を孤立化させ、妻を追い込むために外面はよくしておかなければならないのです。「戦略としての外面」ですので完璧によい人間を演じることさえできます。
外面がよいということは、妻をサポーター(ストレスから自分を支えてくれる人や環境)から孤立化させるための武器なのです。 すると、2次被害に遭いたくない妻は外との情報交換を自ら遮断するため、ますます家庭という監獄の中で自己否定をされ続ける状況に陥っていきます。
その状況に長くいると、自分ならこれができる、なんとかなるという「自己効力感(セルフエスティーム)」がどんどんなくなり、ストレス耐性が弱体化していきますので、行動自体ができなくなっていくのです。

巧妙に罠が仕掛けられていることがおわかりになりましたでしょうか。




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