■保存版!モラハラ相談の手引き(2)
昨年9月号に掲載した手引き(1)の続きです。
渋谷バラバラ殺人事件のセレブ妻歌織被告の公判が始まっていますが、事件の背後にはハラスメントがありました。今回は、ハラッサー(モラハラをする人)とは、どういう人のことをいうのかまとめてみました。
■6,ハラッサーとは、「甲殻類」
モラ父、モラ母、モラ夫、モラ妻−すべてに共通するのは、あるがままの自分で生きていないということです。ハラッサーは、何らかの理由や状況によって、
1)親から「愛情」をもらっていません。
2)自分の「気持ち」を受け止めてもらったことがありません。
3)親の価値観を押しつけられるなどの「支配」を受けています。
4)自分の気持ちを「抑圧」して生きています。
そのため、
1)自分の存在に対する「根源的不安」があります。
2)自分を認めてほしいという飢え「自己認知飢餓」があります。
3)親の手足(道具)として扱われることへの「親に対する怒り」があります。
(怒りとは人間の尊厳を傷つけられたときに湧いてくる感情ですから)
4)自分の感情が育たず、「自分の背骨(内骨格)」ができません。
(気持ちとは自分そのものです=気持ちを大事にすることが、自分の背骨を作ることになります)
5)自分が育っていませんから「中身がからっぽ」です。
それを解消するために、
1)不安を払拭するために金、家、土地、仕事、地位、名誉などにしがみつきます。自分が安心できる空間として車好きのハラッサーも多いです。
2)人から認めてもらうために偉業を達成したり、何事も背負い込んでワーカホリックになったり、世話焼きになります。大変な人と結婚するのも、心配症も形を変えた自己認知飢餓です。
3)親に愛されたいために親への怒りは自覚されず、それを無意識のうちに自分の家族に向けて吐き散らします。決まり事を沢山作ることによって怒るチャンスを増やすこともやります。
4)内骨格の代わりに外骨格(常識、通念、権威、思想、信条、主義、ルール、しきたり、あるべき論)で自分を固めますので、それに沿った生き方しかできません。
5)中身がないので、意見など一般論しかでてきません。見透かされると化けの皮がはがれるため、権威的に振る舞ったり相手をおとしめたり…、常に自分を上の位置に置き人と対等の位置に立とうとはしません。会社で壁を背に机を置いたり、病院に行かないハラッサーもいます。
それを家族から見れば、
1)形に囚われています(心はありません)
2)詮索、介入、過干渉、自慢、傲慢、独り相撲
3)大声、音を立てる、ものに当たる、がさつ、かんしゃく持ち、ヒステリー、皮肉、嫌み
4)頑固、柔軟な対応ができない、気持ちのこもった会話ができない
5)威張っている、権威主義的、高圧的、批判的、プライドが高い、空虚
ハラッサーは、内側に自分の感情という一本の背骨が通っておらず、そのもろく弱い自分を鎧のような外骨格で固めて生きている−いわば甲殻類のような人間と言ってもよいかもしれません。
■7,ハラッサーの特徴=「変面」
前頁で見たとおり、ハラッサーは形=外面だけで生きています。
それが生きる術ですから完璧に演じることができます。
礼儀正しいさわやかなスポーツマンだったり、誠実で社交的だったり、有能なビジネスマンだったりします。ところが玄関一歩手前までそのような顔をしていた人が、一歩家の中に入ると、妻を無視する「能面」のような無表情や、妻を攻撃する「鬼」のような顔に変わるのです。
中国四川省に川劇(せんげき)というのがあって瞬く間にマスクの早代わりをする"変面"というのが特徴ですが、まさにハラッサーの特徴は"変面"ということができます。
なぜ、このような芸当ができるのでしょうか。
外面がよいのは、前回見たとおり「戦略としての外面」だからです。
妻が友人や親族に相談したとしても、そんなにひどい人間だという実感が湧きませんから、「あなたの方も悪いところがあったんじゃないの」という見方をされて孤立無援の状況に追い込まれていきます。つまり、妻を追い込むための布石でもあるわけです。実際、娘がひどい目に遭って実家に戻ってきたにもかかわらず、「彼は今時珍しいくらい礼儀正しく誠実な青年だぞ」と娘を諭した父親もいました。
このように妻が離婚できない背景の裏に、見た目(外見、学歴、会社、財産など)に惑わされて離婚を暗に許可しない両親の存在があることが多いのです。歌織被告が離婚できず追いつめられていった背景にも「お前みたいな女が、新潟なんかに戻ってきて何ができるというんだ」と言った父親の壁がありました。
一方、内面(うちづら)が能面や鬼に変わるのは、演技で生きる外の世界に疲れ果てるからでもありますが、前回書きましたように支配と服従の関係を続ける上で強面(こわもて)が必要だからです。
ハラッサーにとっての家庭とは、自分を守る器であると同時に怒りの吐き出しの場です。
前頁で見ましたように、溜め込んでいる怒りを吐き出す相手が妻子なのです。
しかし、この怒りは代償行為としての怒りですので、自分の親に対する怒りは出て行きません。ですから、ずーっと出続けることになります。能面や鬼面が穏やかになることはないのです。 子供への対し方はハラッサーによって異なります。
アメリカではDVの被害や殺人は妻の妊娠前後6ヶ月が最も多いとのこと。
自己認知飢餓が強い夫にとっての妻は、母親代わりでもあります。特に自分の存在不安が強い場合、妻の意識が自分から赤ちゃんへ向くことは見捨てられ不安を呼び起こします。自分を見捨てる裏切り者、自分の人生を破壊する敵にさえ思えてしまうので、殺人につながってしまうのです。
子煩悩なハラッサーもいますが、それは妻が逃げ出さないように子供を人質にするためです。
子供をなつかせることで妻を間接的に引き留めます。そして、小さい頃から子供の前で母親を蔑んだりして、家族の中で最も低い位置に妻を置くよう子供を洗脳していくハラッサーもいます。これも妻を無力化するためです。
いずれにせよ、所詮は大きな赤ちゃんであるハラッサーに子育てはできません。
両親が揃っていないと子供がかわいそうだという、実態なき評論で離婚を止めようとするのはやめましょう。子供に悪影響が及ぶだけではなく、子供の方がむしろ離婚してほしいと思っていることも多いのです。
何より、子供が自律する条件は、母親が活き活きと生きていることであることを忘れてはなりません。
また、人はモデルを見て成長します(モデリング)。
自律した背骨を持たない父親はモデルになりません。
身近に誰か一人背骨を持つ人間がいればいいのです。
さて、いよいよ離婚話を迫ったとしましょう。
すると中には、心理学を学びカウンセリングに通って、「自分がハラッサーだとわかった。苦しめて悪かった。改心する」と本当に変化したと思わせるような者もいます。また、ゲッソリと痩せたり、うつ病の診断までされて見るからにやつれたりする人もいます。周囲の人々や親族までもが、その尋常でないと落ち込みよう等々を見て完全に夫の味方になり、「許してあげれば」と言い、妻もこれほど本気なら変わるかもしれないと情にほだされて復縁したとします。
しかし、3ヶ月もすれば元の木阿弥なのです。
さらに、ようやく離婚裁判にこぎつけたとしましょう。
すると、裁判の隠れたキーマンである調査官と親密になり、うまくごまかして妻の方をハラッサーに仕立て上げてしまったモラ夫もいます。
結婚−出産−子育て−離婚−離婚裁判…この全てにおいて徹頭徹尾「変面」し続けることのできる天性のアクター−それがハラッサーと言ってよいかもしれません。
中身がないからできること。
家族の問題に関わる人は、見極める目を持ってほしいと願います。
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