■インナーチャイルド
42号で、自分に内在化したドライバーとストッパーの総体をインナーペアレンツ(IP)と呼ぶことを書いた。
なぜ、ペアレントではなく複数形のペアレンツというかと言えば、自分を縛るこれらのドライバーとストッパーは親だけではなく、その親の親―つまり、祖父母からも連鎖してきているからであり、実際2世代の影響を受けている方は多い。さらには、地域環境や時代環境も影響してくる。このような見方をするのが家族療法における世代間連鎖の観点である。
この時書いたように、IPは自分をがんじがらめにし身動きさせなくなっていく。
IPに邪魔をされて言葉や行動で表現されない思いは自分の「心のコップ」の中にたまっていく。
この小さい頃から表現されないままにたまっている感情の総体を私はインナーチャイルドと呼んでいる。
人はフリーチャイルド(FC)で生まれてくるが、
親からドライバーとストッパーを受けて感情を抑制し、
アダプティッドチャイルド(AC)としての傾向―規律・いい子・他人の期待に添う努力・穏便・波風立てず・我慢・妥協・忍耐・主体性の欠如・依存的・自縄自縛・消極的・慎重・上目遣い・長いものに巻かれろ―を形成していく。
つまり、ACとはIPに支配されているFCというのが私の見方である。
実際、私の相談者の方でAC的傾向の強い方がいた。
その方は、心のコップにたまっていた怒り、恐怖、絶望、悔しさ、恨み、嘆き、哀しみ、殺意といった感情をいろいろな方法で吐き出していき、同時にその感情を出していくことがIPを弱めていった。そして、この苦しく長い自分との闘いの最後に、頭が割れるようで背中まで痛くて立ち上がれず、視界もぼやけ耳も聞こえず、体中が心臓になったように痛みだけが脈打つような時を迎えた。その時にその方が感じたことは「背中に張り付いている毒蜘蛛が引きはがされまいと最後の抵抗している」ということと「自分(FC)が生まれようとしている」ということだった。この毒蜘蛛がIPである。
私は、映画「マトリックス」を思い出した。
ACの棲む世界は、IPに支配され、無意識の人生脚本に縛られた共依存のモラルハラスメント界である。
一見、システムに庇護されているように見えるが、背中のチューブからエネルギーを吸い取られて疲弊していく。虚構世界に囚われた機械の一部として眠りつつ作動している人間(HumanDoing)が、背中にくっついているチューブをブチ
ブチと外して自由な人間(HumanBeing)になるように、最後の最後までしがみつこうとするIPをブチブチと引きはがせ
ば、FC(あるがままの自分)が誕生するのだ。
今その方は、「こんなに生きるのが楽な世界があるとは知りませんでした」という自律した世界に生きている。
カウンセリングのゴールは人を自律に導くことである。
自律とは、あるがままの自分(FC)で活き活きと生きられるようになることだ。
行動変容と言うが、それはその人を"変える"ことではない。
その人をあるがままの自分に"戻す"ことである。
そのためには次の2つのことをする必要がある。
1,IC(インナーチャイルド)を救い出す
2,IP(インナーペアレンツ)をぶち破る
ICを救い出すことで心のコップが軽くなって心身の症状がなくなり、自分と自分の感情が一致(自己一致)してくる。
IPをぶち破ることでAC的傾向から解放され、FCに戻る。
過去の感情を手放しFCに戻った自分は、それ以降はその時々の感情を素直に表現して生きられるようになる。
それはわがままな生き方にはつながらない。
なぜなら人は本来健全で、感情はとても合理的だからだ。
人を信じなければカウンセラーという職業は成り立たない。
皆さんも、自律を目指して自分と向き合ってみましょう。
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