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■パワハラ上司の「雪隠詰め」の戦略

【ドラマ】 【ハラッサーの支配の方法】
@
課長が、「この企画書目を通してくれるかな。あなたの意見を聞きたいの」
Aさんが、2時間後に意見をまとめて持って行くと、
「あ、あれ。もういいわ。時間がかかりすぎね。もっと早く出してくれないとダメよ。あ〜忙しい。仕事が山積みだわ」
@まぁ、まともな会社なら、即日意見を聞くなどというアンチョコな指示は出さないでしょう。指示は部下を鍛えるために出すもの。部下も仕事を持っていますし、考察を鍛えるための時間を与えるはずです。そして、意見が出てきたら、それについて検討するだけの時間を考慮しているはずです。
指示を出し→意見が出てきて→それに対してフィードバックする。このキャッチボールをきちんとやって始めて部下は育つし、信頼関係も育つのです。

にもかかわらず、2時間で意見をまとめて持っていくなんて、Aさんは優秀だと思います。ところが見もしないでダメ出し。つまりは、「最初から意見を聞く気なんてない」ということです(←ここがポイント!)。

しかも、このM課長、う〜む、うまいというか、いやらしいというか…実に巧妙にAさんの発言を封じているのです。それはまた後ほど(^^)。
A
課長が、「この書類コピー20部とって会議室に持ってきてくれる」
持って行くと、
「遅いわよ。コピーとるだけでどれだけ時間かかっているのよ!私が口頭ですませたわよ。次からちゃんとやってちょうだいね」
A「コピー20部」ですよ。まぁ、大体の時間はわかりますよね。
ところが、不足のないペースでコピーを持って行ったのに、「遅いわよ」です。
つまりは、最初から「コピーなんて必要ではない」ということです(←ここがポイント!)。

はい。ポイントが2回続くとわかってきましたね。この課長は「Aさんを責めるため」に、わざわざ無用の仕事を指示しているのです(←ここが重要!!)。
なぜか? それはまた後ほど(^^)。
@AでM課長は、先ずターゲットであるAさんに、「自分は無能だ」という“刷り込み”を行っています。簡単な指示の方が無能さが際だちますから、コピー取りなんて格好のネタかもしれません。
こうして、Aさんは、自分ならできるという自己効力感(セルフエスティーム)を失っていきます。自尊心や矜持を奪われていくわけです。
B
夫に話しをすると、
「そんな上司いくらでもいるよ。そんな奴にはハイハイって言っておけばいいんだよ」

Bストレスに遭っている人にとって、サポーターはその名の通り支えになる存在。話を聴いてあげるだけで気持ちはラクになり、打開策も見えてくるのですが…、肝心なサポーターである夫はとりつく島もなく、Aさんは孤立無縁になってしまいます。これで、気持ちが追い込まれていく条件が一つ出来上がります。

Bでサポーターを失います。たった一人と思うことは、それだけで気力が奪われるものです。へこたれたときに立ち上がれなくなります。
C
課長が、「大事なお客様との会議があるんだけど、何かおいしいお菓子買ってきてもらえる? あなたのセンスに任せるわ。よろしくね」
会議終了後、部長が会議の首尾を聞きに来る。課長が、あまりうまくいかなかったんです、報告しつつ
「Aさんのお菓子にはやられたわ。あれだけ会議に合わないもの買ってくるんだもの」
「え、なにかいけませんでしたか?」
「口の中がパッサパッサで話しづらいのよ。次はもっとセンスの良いお菓子買ってきてね」

C「大事なお客様との会議」にお菓子など出しません(--;)。まぁ、部長が「ハッハッハッ、失敗の原因はAさんのお菓子か」と笑っていましたので、言うほど重要な会議ではなかったのでしょう。
それに話しづらいことと、会議の成否は全く別物です。「それとこれとは別だろう」と部長が言ってもいいくらいなんですがね…。

ここでもM課長はAさんを責めるためにやったことが明白ですが、実は重要な戦略が隠されています。

C
ここでM課長は、上司(部長)に対してAさんが使えない、というアピールをしているのです。実に巧みなのは、センスの問題でつついたこと。
部長とAさんの付き合いは新任のM課長より長いわけですから、仕事の実力は大体わかっているでしょう。ですから、下手に仕事ができないということをアピールしようとすると、「それはM課長の指示の仕方が悪いんじゃないか」と逆を突かれる恐れもあるわけです。

そこで…、お菓子のセンスが悪い、ということで突っつくことにしたわけです。ただ、それが仕事に支障があったことにならなければ、Aさんは使えない、というイメージをアピールできません。ですから、お菓子のせいでうまくいかなかったと、まぁ無理矢理こじつけたわけです。

ともかく「なんとなくうまくないなぁ」という印象が部長に植え付けられればよいわけですから。これが巧妙なM課長の『戦略』です。
D
課長が気前よく部下におごってくれる飲み会の席上で、課長が、
「Aさん全然進んでいないよ」
「すみません、あんまり強くないもので」
「なんなのよ、もう〜。仕事も遅いしお酒も飲めないなんて、何が楽しいの〜」

D『気前よく部下におごってくれる』=手なずけですね。単純に喜んではいけません。部下を手なずけて味方にしつつ、その席上でAさんが仕事が遅いこと、人としても魅力がないことを印象づけ、そして何より自分は認めていないことを部下全員に聞かせているのです。コワイですねぇ〜。
D
今度は同僚にAさんが仕事が遅いことを印象づけましたね。
こうして、上下左右からAさんを分断し孤立化させていきます。
E
たまたま部長と2人になったとき、何気なく課長とのことを話す。
「ふ〜ん、なるほどねぇ。私から見ている限りそんなことは感じないけどねぇ…。まぁ、それとなく話してみるよ」



Eここは部長の「リスク管理能力」が問われるところでした。「部下がこういうことを話すというのは、余程のことなんだ」ということにピンとこなければ、まぁマネジャー失格です。
洞察力のない部長が伝書鳩のように動いてしまうと、まぁ大体騒ぎは拡大します。
E
たとえM課長がどのような策を巡らそうとも、部長に洞察力があればM課長の浅薄な行為は見通せたはずです。しかし、見通せなかったことがAさんを追い込みました。
F
数日後、Aさんが休憩ついでに皆にお茶を入れようとすると課長だけが無視。一言「後で会議しつ来てくれる?」


Fはい、騒ぎの拡大を待っていたのはM課長でした。恐らくこういう事態がいつか起こるであろうことは、ホリエモンじゃあ〜りませんが「想定の範囲内」です。チャンス到来。
課内の人間全員に、ついに自分がAさんを認めていないことを、無視という態度で「公示」したのです。

F
「Aさんを無視せよ」ということを課内に態度で「宣言」しました。
G
「部長に言われて驚いたけど、あなたにパワハラしようだなんてちっとも思ってなかったの。でも、次の人事があるまでは異動できないと思うから、それまでは我慢してね。それに、このことが原因でキャリアに傷がつくのもイヤだし、お互いのためだから、あなたとは会話しないことに決めたから。」

G極めて巧妙な、ポイントを押さえた発言です。
パワハラでないことを明確に伝え、そう曲解したAさんが悪いと暗に責めています。
それで、次の異動でAさんを飛ばすことを予告し、それまでの間は無視することを宣告したわけです。
これによって、M課長は罪を相手に着せつつ、合法的に無視できる体制を作ったのです。

尚、ここにも極めて巧妙なコミュニケーションの罠が隠されています。
G
そして、雪隠詰めの「詰め」の部分ですね。
これから課内ではAさんを無視することを、本人に「宣告」しました。
H
そして、仕事を干されて一人だけ浮いたAさんは他の社員とも話しづらくなり、心身ともに蝕まれていき、うつになって退職することになりました。

H職場では、課長から公然と無視されるようになります。他の社員2人は、Dで手なずけられ、またDFでAさんがM課長に嫌われていることがわかっていますから、助けの手は伸びてきません。…そして、『うつになって退職』です。

H
『うつになって退職』−M課長の望んだとおりの“詰み”です。

@AでAさん自身に自分は無能だと思わせ、
Cで上司(部長)に思わせ、
Dで同僚に思わせ、
Fで課内でAさんを無視するよう宣言し、
Gで本人に無視することを宣告しました。

本人に布石を打ち、
周囲に布石を打ち、
最後は本人に宣告する。

見事に詰め将棋をしています。


こうして、自信あるキャリアウーマンをうつに追い込んだのです。

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