1989年、「人間のための組織開発シリーズ」(行動科学実践研究会)を研究した私は、グループダイナミクスに焦点をおいた新入社員研修を独自に創りました。 「アイスブレイク」、「ファーストインプレッションゲーム」に始まり、「スタンツ」、「ジョハリの窓」に終わる3泊4日の研修です。 関東から中部にかけての5事業場から130人ほどの新人を集め、御殿場にある国立中央青年の家で5年に渡って研修を実施しました。 当時は、入社前の事前研修。青年の家で事前に会場確認及びリハーサルをした、各事業場から集まった5名の人事スタッフを除いては、全員が当日初顔合わせ。 方言も違えば学歴(高校、高専、短大、専門)も違って最初は氷のような新人が、わずか3日後の夜には各自が個性を活き活きと発したスタンツ(寸劇)を演じ、自覚と相互信頼、求心力を持ったチームに育って感動と共に別れて行きます。 その新人の後見人として、各職場から入社3〜5年目の先輩を抜擢し、1チーム10名前後の面倒を見てもらいました。その方々へ指示したのが「リーダーでもトレーナーでもなくファシリテーターとして参加してくれ」ということでした。自律性を引き出すことが役割だからです。 当事、毎晩遅くまで「うちのメンバーの○○が心を開いていないが、どうしたらいいんだろう」というような相談をファシリテーターから受け、皆で話し合った事を懐かしく思い出します。 当時の私は、セッションを進行させつつ130人の個性を観察し、2日目には、各ファシリテーターが挙げてくる“悩み”に対応できるようになっていました。(今は、とてもじゃありませんが、そういう芸当はできません ^^;)。 さて、そういうファシリテーターの真摯な姿勢は新人にも伝わり、呼応するように新人も覇気を見せ始めます。場所は、国立中央青年の家。 富士の麓の広大な敷地に、10数社の企業が様々な研修を繰り広げています。 業種も規模も様々。 声が枯れるまでの発声練習やマラソンなどハードスケジュールをこなす販売業界もあれば、お揃いのウエアでバシッと決めた大メーカーもあり、研修の中身も夫々。 しかし、そういう中で、「うちは、どこにも負けていない」と、新人が頑張り始めるのです。 そして、明日の朝礼は我々に仕切らせてくれ、などと言って来たりします(^^)。 3日目の朝。 スタンツのテーマを発表―(例えば)「贈り物」です。 そのテーマを元に、夜の発表会までに10分間の寸劇を創り上げなければなりません。 それも、この日のセッションをこなしながら、休み時間を使って相談し創り上げるわけです。 喜劇、シリアス、バラエティ、オムニバス…どういう路線で行くのか、シナリオは、配役は、小道具の手配や作成は、そして、練習は…。 ここには、映画と同じく「プロジェクト」遂行の全ての要素が詰まっています。 チームの総合力(組織の生産性)が試されるわけです。 この2日間でどれだけチームが出来上がっているかが、勝負。 そして、笑えるもの、泪を誘うもの…夫々個性あるスタンツが終わり、大団円のキャンドルサービスへと移ります。ここで、新人の1人に思いを述べてもらいます。 この1名を決めるのが、前夜の大仕事。 各ファシリテーターは、自分のチームの新人を押して一歩も譲りません。 (彼らが管理職となり、部下の評定会議や昇進会議をした時に思い出したかもしれませんね) 私が出した判断基準は一つです。 「背中をちょっと押せばやれそうな人」 自ら舞台を作れる人、舞台に上がれる人は除くわけです。 出来る人間には手を貸さずに自らさせることが、本人の成長につながるからです。 そして、それが出来ないが、もう一息という人にチャンスを与えます。 これが、組織がチャンスを与える与え方のモデルです。 各ファシリテーターは、自分の推薦する子の人間像が他のファシリテーターに分かるように情報と“思い”を提供します。 ここで試されるのは、理屈っぽい説得力ではなく、どれだけ観察し、どれだけその子の内面も洞察し、そして把握した事を相手に伝えることが出来るかどうかという観察力、洞察力、表現力。 かくして、侃々諤々。 私が上記“判断基準”に立ち返りつつファシリテートしながら、だんだんと収束していきます。 最終的には、全員を把握している私が決定するわけですが、ついに1名に決まらず、3名の新人に述べてもらった年度もありました。 最終日、これで皆各事業場にバラバラになる日。 バスに乗り込む前の振り返りセッション―ファシリテーターから我々も感想を述べたい、と声が上がります。 そして、一人づつ前に出て感想を述べ始めるや、前夜泣いたばかりというのに、またすすり泣きが、あちらからもこちらからも。 そして、各事業場に散った後も、新人たちは事業場を越えて一緒に遊んでいました(^^)。 人を引き出し、育てる苦労をしたファシリテーターの方々は、よいマネージャーになりました。 |