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★アメリカ在住の日本人のための生活情報誌「Pavilion」 アメリカ在住の日本人のための生活情報誌「Pavilion」に連載。 パビリオンは、在米弁護士事務所から出資を受けて法律情報なども提供する情報誌で、シカゴを中心とするイリノイ州やミシガン州、一部は東海岸でもスーパーや食料品店を通じて流通している。 |
| ■「ダブルバインドという監獄からの脱出」 今回お話しする職場での実体験は、『モラル・ハラスメントを許すな!C』に書かれていた『相手を支配し、自分の思い通りに操る』という『モラハラの最大の特徴』の典型とも言える体験です。どのように上司が罠を仕掛けてきたのか、そしていかにして私がその罠から離脱できたのか、苦悩されている皆様が救われるよすがになればと思います。 「こういうことは事前に相談しろ!」 ある日すごい剣幕で怒鳴られた時、それが始まりでした。戸惑った私は、次のときに、それまで自己裁量で動いていたことも一言言っておいた方が無難だと思って判断を仰ぎました。すると、 「そんな話までいちいち俺にもってくるな。そんなこともお前は自分で判断できんのか!」 といやな顔をされて混乱しました。自己裁量の基準が分らないからです。ある時それほど考える余地のないことに 「一つの案だけじゃあていよく相手に押し付けているだけじゃないか。いろんな場合を想定しろ」 と言われて、用心のためにいくつかの案を用意すると、 「よけいなことは考えるな。それは、お前が考えることじゃない。でしゃばるな!」 と今度は怒鳴られました。またある時、その上司が文句をつけたことに対して説明を行おうとすると、 「弁解するな。お前のために言ってるんだ。黙って聞け!」 と一蹴されました。『突っ込まれたときの答えを全て用意しておかなければダメだ』と言っていたのは誰だ、と思いつつも、黙って怒られているしかありませんでした。 つまり、この件は相談すべきか否かに始まり、いつ相談するか、口で言うのか、文書にするのか、文書にはどこまで書くのか、聞かれた際にどこまでどう答えるか、に至る相談事のすべての過程にわたって地雷が仕掛けてあるのです。しかもそれは避けようのない地雷であり、触れたが最後爆発するしかないものでした。もっとも安全なのは"動かないこと"しかなく活力がなくなっていきました。 いつからか、席に座ると、まだその上司が出社していないにもかかわらず、身体の全身の神経がピリピリと右隣の上司の席を警戒するようになりました。呼吸をどのようにしたらいいか、など、普段考えずともよいことに注意を払い続けているようなものです。月から金曜日にかけて私はどんどん磨り減っていき、土日にかろうじて自分を取り戻し…という家族サービスの余裕すらない日々でした。 過去に何人も部下をうつや左遷でつぶしできたこの上司に、かろうじて耐えられたのは3つの理由があります。 1つは、過去に同様な上司についた経験知があった事 2つは、カウンセリングの勉強仲間が話を聞いてくれた事 3つは、ダブルバインドの理論を知っていた事 ダブルバインドとは、人を支配するコミュニケーション手法です。先ず、「指示に従わないことを禁ずる命令」(第一次禁止令)が発せられます。「こういうことは事前に相談しろ!(でなければ罰する)」というのが、それです。 次いで、「異議申し立てを禁ずる命令」(第二次禁止令)が発せられます。「お前のために言ってるんだ。黙って聞け!」というのが、それです。 「指示に従わないことを禁」じ、その指示に対する「異議申し立てを禁」ずるという二重の禁止令で拘束するためダブルバインド(二重拘束)と言います。 ダブルバインドから逃れる方法は一つしかありません。それは支配者から逃げることです。が、支配者は手を打ちます。ある時、次のように"耳打ち"されました。 「お前のことを行動力があると言っていた部長がいたんで、とんでもない、あいつは言われた通り行動しているだけで中身がない。それどころか出すぎていると事例を挙げて話しておいたよ」 つまり、お前は俺の手の内なんだから、俺の言うことを聞けと脅していたわけです。そういう意味でダブルバインドを完結するための「逃げることを禁じる」状況や命令を第三次禁止令と呼びます。 ダブルバインドに遭うと、被支配者は自分の感情は押し殺したまま、一方的に支配者の感情や言い分を受け入れざるを得ない操り人形になってしまいます。私は理論を知っていたため上司の行動の予想がつき、そのことが、かろうじて閉塞状況(第三次禁止令)に穴を開けていました。 しかし、その状況が長く続いていたらおそらくつぶれていたでしょう。私はカウンセリングで気持ちを聴いてもらうことでパワーを得、別の幹部に働きかけ、最後はその上司が異動となって離れることができました。 どのように変えていったのかは拙著『あきらめの壁をぶち破った人々』(日本経済新聞社)の中にリアルに書かれています。会社で苦しまれている多くの方の救いになると思います。是非、お読み下さい。 |