4.個の問題を関係性の中でとらえ直す"システムズアプローチ"を取り入れる

高度成長期は、供給者が持つ製品やサービスを市場に押しつけるプロダクトアウト方式でした。
 やり方も決まっていたので、個人に能力アップを押しつけるプッシュ型の教育で対応できました。

 しかし今は、市場の中に入って何が求められているのかを、探り出さなければ答えが見えてこない時代です。
 しかし対象とする相手が、なかなか本音を言ってくれない“引きこもり社会”でもある。
 だからこそマーケットインの発想で、引きこもり社会の人々や社員の気持を引き出す“プル型のマネジメント”が必要だと考えています」

 その意味で中尾さんの言うカウンセリングマインドは、経営の鍵であり人事の鍵でもある。
 それをコーチングと呼ぶかメンタリングと呼ぶかなどは、ほとんどラベルの選び方にすぎないのかもしれない。
 いかに感情にアクセスする大切さを自覚し、気持を引き出して人と人をつなぐ土壌を作るか。そこが本当に重要なことだろう。



「そこで私が提唱したいのは『システムズアプローチ』という考え方です。

 これは家族療法の基本概念で、家族カウンセリングで用いられます。
 例えば引きこもりや家庭内暴力など、家族の中で問題を起こす者をIP(注:Identified Patient, Index Person…患者と見なされる人、指標となる人といった意味)と呼びます。

 問題が表面化しているのはその人ですが、それは家族というシステム全体の病理が表れた結果だと見ます。 この考え方は家族の問題だけではなく、企業などあらゆる組織に適用することができます」

 著書『あきらめの壁をぶち破った人々』でも、主人公の島津はこの考え方で組織をとらえ、行動していった。本の中に次のような一節がある。

『何より、健全な人間同士であっても、その両者の関係性によって問題や症状が生まれるという当たり前の考え方が好きだった。 心が弱いから心の病に陥るのではないのである。 誰でも心が風邪を引くことはあるし、またその症状が周囲に対するメッセージとしての意味を持っているのである。

 だからけっして個人に原因を求めない。強いて言えば関係性の中に原因を求めるのだが、関係は相互作用だから因果は巡っている。 これを循環的因果律と呼んでいるが、変えるのはその関係性である』(『あきらめの壁をぶち破った人々』日本経済新聞社――より)



「少なくとも人事が、そうした考え方を持って行動を始めるだけでも違ってくると思います。そこから企業内教育のあり方を変えていくきっかけをつかんでいただきたい」

 野球やサッカーでも、個人技に秀でた者が集まれば強いチームになるとは限らない。
 それは会社組織にも言えることだろう。どうも漠たる成果主義の中にある個人への期待もしくは責任転嫁が、 問題の本質を熟考する機会を奪っているような気がする。

 だからこそ単なる個のパワーアップではなく、個と個の足し算を何倍にもすることのできる個の育成。 つまりファシリテーターを育てること。今後、中尾さんもそこに力を注いでいきたいと言う。

「私の言うファシリテーターは、“触媒役”という意味合いです。人と人をつないで組織を活性化させていく触媒
 そのためには、まず自己開示して信頼を得なくてはなりません。
 また議論の過程では、さまざまな人の発言を肯定的に受けとめて返し、そこからまた議論を積み重ねていく技能が必要です。 このスキルをカウンセリングでは“リフレーミング”と呼びます」

 前述した「組織としてのポリシー」の明確化を前提に、ファシリテーターが改革のための触媒となる。

「そのためには誰を置いても、まず経営者自身がファシリテーターであるべきでしょうね。 カルロス・ゴーン氏は、まさしくポリシーを持ったファシリテーターだと思います。 彼のような意志と実行力を持つトップのもとで、そのポリシーを共有する人材がファシリテーターとなるのが理想ですね」

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