| 「MIND-REPORT」は、日本の優れたノウハウやソフトウエア製品を日本国内に普及し、日本の国際競争力を高めることを目的として、「MIND-SA事業」や実践的「プロマネ研修事業」等を手がけるシステム研修(株)社の季刊誌です。その巻頭言に掲載されました。 |
| 今年46歳になった私の丁度10年先輩が団塊の世代である。 同世代に属する“友人”は多い。根がまじめでお祭り好き。 率直で乗せやすいこの世代が私は嫌いではない。 しかしながら、現在この世代は“落し蓋”となって、企業の、いや日本の社会に蓋をしてしまっている。そしてそのことに最も苦しんでいるのも、彼ら自身である。 「中尾君、レールを引いてくれよ」−そういう投げかけを幾人もの同世代の方から頂戴した。 自らはレールの引き方が分からないが、引かれたレールの上を突っ走ることはお手のもの。そういう自画像を彼らは持っている。 なぜ彼らはこのような状況に陥ったのか。そして、潜在パワーを持つこの世代を再活性化するにはどうすればよいのか。私の考えていることを述べてみたい。 拙著「あきらめの壁をぶち破った人々」(日本経済新聞社)の一節で、私は「団塊世代の課題」を書いた。 一貫して『大きいことはいいことだ』の物量拡大の時代にあった彼らは、量産のために分業が徹底された時代を生きた。『私作る人、あなた食べる人』のCM通り、性別分業が最も進んだのも意外やニューファミリーと言われた同世代である。 会社においても役割を区切った。入社時、会社には階層があり、横を見れば仲間も多い。縦横に組み上がった組織の中で互いに邪魔をしないよう、よく言えば分を守るメンタリティが植えつけられた。 高度成長は部門間連携を取らずとも企業が拡大することを保証し、セクショナリズムを助長した。その狭い枠の中で、上意下達。言われた範囲のことをがむしゃらにやっていれば会社は発展していった。同期の数の多さがその競争に拍車をかけ、会社人間(過剰適応症候群)を生み出した。 工業化社会は同じことを同じようにやることを迫り、彼らは“なぜ”を問う(=考える)習慣をなくしてしまった。 会社の幹部になる頃、ふと気付くと、時代は彼らの培ってきた方法論が通用しない時代へと変わっていた。企業は“なぜ”を問うことを迫り、変化することを迫った。 しかし、変化し得ないことがわかると企業は早期退職を迫るようになった。 が、会社以外に社会との繋がり方を知らない仲間が濡れ落ち葉となる様を見て、退職までのカウントダウンが始まったモラトリアムを会社にしがみついて生きている。 一方、彼らが“直面化”してこなかった「人生の課題」は、過疎過密(地域)、育児(家庭)、教育(学校)、介護(病院)、過剰適応と自殺、引きこもり(本人及び自分の子ども世代)等々、様々な社会的問題を生み出した。 3年後から数年(定年延長も含めれば8年間)にわたって、自らの「人生の課題」を直視することなく彼らが社会にあふれ出した時、潜在化している問題が一挙に顕在化し、離婚急増他の社会的混乱を招く可能性もあるだろう。 これが、団塊世代の置かれている現実である。 そして、夫婦のいずれかが団塊に属する世帯人数は3千万人−実に総人口の1/4であることを考えるとき、この問題は世代を超えていることが分かる。放っておけば社会全体でコストを負担しなければならなくなる。我々の問題そのものなのだ。 解決策は1つしかない。 会社との共依存の中で生きてきた団塊世代が「自律」することである。 自律のためには自信が必要だ。 セルフエフィカシー(*1)が得られれば、退職金を積み増しせずとも自ら飛び出していく。 その自信を得るためには、最新のキャリア理論(*2)が教えているように、自分を振り返ることと“学び直し”が必要である。 が、企業は団塊世代に教育投資をするつもりはない。 国や行政もまた、税金を投入して再教育の機会を与えることをしなかった。 民間のキャリアコンサルティングはジョブマッチングの世界であり、自己実現を求める人や団塊世代にはミスマッチである。 つまり、行政からも企業からも、さらに民間からも同世代にマッチングした“学び直し”の機会が与えられていない。これが、隠れた最大の問題なのだ。 誰かが先鞭をつけるしかない。 私は、“友人”のために一肌脱ぐことにした。学び直しと仲間作りの場を提供することにしたのである。 題して「人生リスタートセミナー」(仮題)。 基本形は、私のホームページに「転機の8ステップ」と題して掲載している(*3)。 ユニークな点は、コミュニケーション実習や家族ロールプレイなどの演習である。 部下や妻の気持ちを“実感”すると姿勢が変わり始める。 それは、マネジメントにも家族関係にも確実に好影響をもたらす。 実際に私は、それで組織改革プロジェクトを成功させることができた。 家族との信頼を紡ぎ直すことができた。 そして、仕事での成功と家族との信頼関係が、第2の人生に踏み出すときの大きなジャンピングボードになったのである。 同世代への上記の教育投資は積み増し退職金の1%以下のコストですみ、一方組織の生産性アップにつながる効果は、月間「人事マネジメント」のインタビュー(*4)でも述べた通り計り知れない。 50代の地域活動への関心の高さが7割を越え、NPOがその足がかりとして位置づけられてきた(*5)現在、上記セミナーは、地域の中で仲間を作り、キャリアを活かして自己実現を図りつつ活力ある地域を創出することにつながる第一歩にもなるだろう。 団塊世代の意識改革を伴う再活性化は、本人、家族、地域、企業の夫々が抱える課題を解決して社会のコストを軽減させるだけでなく、健全な活力を取り戻すための一石五鳥の施策である。 自己責任として突き放すのではなく、企業もCSR(企業の社会的貢献)の一環として取り組んでいただければと思う。 |
| *1 自己効力感。これが80%を越えると人は行動に踏み切ると言われている。 *2 Positive Uncertainty(ポジティブ・アンサートゥンティ)概念:Uncertainty(不確実)であることをPositive(前向き)にとらえていこう、というジェラード博士が提唱した考え方 *3 http://www.jiritusien.com/kojin-career.htm *4 5月号 -この人と1時間- 「会社変革の仕掛け人・中尾英司氏」 *5 「国民生活白書2004」 |