| 5月9日。国は、この事故を機に国交省が特定したカーブ区間へのATSの設置を義務付けることにしたということです。この対策の打ち方には微妙に疑問が残ります。 先ず、早急に運行再開を企図していたJR西日本に対して、設置を義務付けたことは妥当だと思います。 なぜなら、遅れを取り戻すための高速運転を容認するために、JR西がわざとこの区間にATSを設置しなかった可能性もあるからです。計画的に設置していく予定があったのであれば、R300という急カーブを持つこの区間が優先して設置されるべきだったでしょう。 しかし、設置されないままに来た。それは、この区間の路線を変更して「安全軌道」から「高速軌道」に変えたときから宿命付けられていました。 この区間に新型ATSがないのは、JR西が何を第一優先として考えているかを象徴的に示していました。ですから、そのJRに対して新型ATSをつけるまで運転再開を認めないのは妥当だと思います(ただ逆に、国に言われたからやった…と、深い反省につながらない可能性もありますが)。 では、何が微妙に疑問なのか?もう少し洞察してみましょう。 途中の乗降時間が15秒しかない駅もあるという「最速路線」と言われる同路線で、混雑により少しでも乗降に手間取れば遅れが出ることは必至。そのしわ寄せは、どんどん後ろの駅へたまっていくわけです。運転士には、イライラしたプレッシャーが1秒ごとに蓄積されていきます。 しかし、途中どのようなことがあろうとも、「絶対駅」には必ず「定刻」につかなければ「1秒単位」での遅刻理由の報告が待っています。酷い場合には、「日勤教育」という虎の穴が口をあけて待っているわけです。 その虎の穴を避けるためには、たまりにたまったしわ寄せを、尼崎駅直前まで回復する努力を続けなければなりません。そのため、伊丹駅から尼崎駅まで最高速で駆け抜けるわけです。そして、カーブに差し掛かる段階でどのように制御するかは、運転士の「勘」に任されています。 どんなに腕がありベテランであっても、「挽回しなければ」「急がなければ」というプレッシャーがあれば、勘も判断もくるいます。その一瞬のブレーキ操作の遅れが事故につながるわけです。 実際、5月9日付けの毎日新聞によると、2つ前の停車駅(川西池田駅)で、『通学、通勤客らの乗降に手間取り、駅を定刻より約35秒遅れで出発した』ようです(←運行計画自体に無理があるわけです)。 ゴールは「絶対駅」尼崎駅ですから、高見運転士はなんとかそのゴールに定刻に間に合わせようと、プレッシャーがかかっていたのではないでしょうか。その急げ急げというプレッシャーが、思わずオーバーランにつながり、そのことが、さらに高見運転士をパニックに陥らせたことは想像に難くありません。 精神的に痛い目にあったことのない人は分からないかもしれませんが、一度痛い目に遭うと、その状況を想像するだけで身体が戒厳令を敷くようになります。なんでもないことなのに、過剰に神経が高ぶったり過剰に身体が硬くなったり、いわばアドレナリンがガンガン出る状態になります。 35秒の遅れを取り戻そうとしてオーバーランし、逆に1分30秒もの遅れに拡大させてしまった高見運転士。彼の脳裏には、確実に身も凍るような「日勤教育」のシーンが思い浮かんだことと思います。彼は、その地獄からまるで逃げるかのように突っ走ったのではないでしょうか。 さて、仮にこのカーブにATSが設置され、他の状況はそのままだとしましょう。 すると、このカーブでは自動制御がかかり時間を稼げなくなります。そうなると時間を挽回することができるのは尼崎駅直前までではなく、このカーブ直前までと言うことになります。いわば、時間を挽回する距離が縮まって「絶対駅」が「絶対カーブ」に変わっただけのことではないでしょうか。 つまり、その手前の他の区間に無理が出る可能性があるということです。 言いたいことは、事故が起きたカーブだけで速度を落とす対策を取るのではなく、そのカーブでさえも速度を出さなければならなくなるその路線自体の運行計画を見直せと言うことです。 ATSは人間の勘便りの制御を、機械に切り替えただけの話です。 しかし、職人技を見ても私は人間の勘ピュータに勝るコンピュータはないと思っています。一方、ATSも人の作ったもの。狂いもあれば手心を加えることもできるでしょう。無理のない計画の下にあっては、人を信頼するのが最も信頼性が高いと思います。 おかしいのは、始発から終着に向けて1秒ごとにストレスを溜め込んでいかなければならない過密な運行計画そのものなのです。また、無理なカーブまで作ってしまうスピード優先の姿勢です。 その姿勢を持ち続ければ、どこかでまた無理な運行計画ができます。無理をした上でミスを押さえるためにATSが設置されるようでは、ATSは悪しき状態を延命させるためのイネイブラー(維持促進者)と言わざるを得ません。 国は、乗降客にまで迷惑をかける過密な運行ダイヤを見直せと明確に言うべきではないでしょうか。 |
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